迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか



迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか

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私たちの体内で繰り広げられる遺伝子競争

 私たちの意思などにはおかまいなく人間の体内で繰り広げられる様々な遺伝子の激しい生き残り競争。これこそ病気の実態なのである。

かなり残念な本

前半の進化医学に関する説明はかなり良くできている。イーワルドの主張の繰り返しもあるが、実例をしっかりあげ、論理も説明も明快で進化医学の入門書としては素晴らしい。

問題は後半にある。まず驚くのが、「種の保存のため」というナイーブな群選択説(純朴な、稚拙なとも形容される)を信じていること。群選択にまつわる議論はここ40年?20年前のホットトピックだが、彼はその事を知らないようだ。彼の回りに種の保存論の論理的誤りを指摘してくれる人はいなかったのだろうか。種の保存論を信じていると、生物の社会性を論じるときに大きな過ちをおかすことになる。

次に突然変異に方向性があるという説。それ自体は度々主張されるから目新しくないが、本書のユニークな点は「遺伝子と形質が一対一で対応していないから」という的はずれなもの。遺伝子の多面発現性は古くから知られていたし、多面発現することと変異に方向性があるかどうかは全く別。
その後エピジェネティクスの話になるとまたまともに戻るのだか、変異の方向性と種の保存論という致命的な誤りは痛すぎる。
この二つがなぜどう間違いなのか分からないであろう初学者にはおすすめできない。
糖尿病は不凍液作りだった

遺伝と病気の関係なんて、いかにも面白そうなテーマである。

遺伝病のかなりは実は現在と異なる環境からの淘汰圧による進化であるそうな。書いてあった一番面白い例は、糖尿病は氷河期には有利に働いたというものだ。糖分の多い血液は氷点が低く、氷河期で凍傷にあう確率を減らす。糖尿病による合併症のリスクより、低体温のリスクの方が大きかった氷河期には、糖尿病の遺伝子は正の淘汰圧を受けて増加した考えると、糖尿病遺伝子を受け継いでいる人が多いことが説明できる。他にも鎌状赤血球とマラリアの例とか、鉄分の溜まる遺伝病と中世西欧のペストの流行の関連とか、例が豊富で面白い。

次に、病気の遺伝子と宿主の遺伝子の競争進化と言うか共進化と言うかの面白い例が並んでいる。ドーキンスの「延長された表現形」だよなあと思うのだが、お尻に卵を産む寄生虫は、お尻を痒くすることで、宿主にお尻をさわらせるとか、アリを経由する羊の寄生虫に寄生されたありは、羊に食べられやすいように牧草の葉の先端に行くとか。

伝染病の制圧を病原体と人との間の軍拡競争を起こす抗生物質に頼るのでなく、病原体の伝染経路に適当な淘汰圧を加えることで弱毒化する、なんてアイデアも思白かった。例えば、コレラが致命的なのは、宿主が死んでも強烈な下痢を起こさせることで伝染しやすいからだ。衛生観念を進めて、吐瀉物や下痢を適切に処理すれば、宿主を簡単に殺すような強毒性の菌はむしろ淘汰されて、コントロールしやすい弱毒性の菌が主流になる。そうなると、病気との共存が簡単になるという考え。風邪はなぜそんなにひどくならないか、マラリアにかかるとなぜ動けなくなるか、などが伝染経路と関係があり、そこに淘汰圧をかけるなんてプランも書いてある。

最後の方は遺伝子発現のコントロールが後天的にできる(エピジェネティック)お話とか、人類水中進化説とか、少々雑駁になってくるが、さすがは専門家とクリントン大統領のスピーチライターと共作。語り口がうまくて飽きさせない。

最近の生物学の進歩の面白さを実感させる本であった。大変お薦め。
グールドが正しかったということか?

従来は、人間が変異するのは偶然の結果だとされてきたのですが、最近はそうではないことが分かってきました。ある変化圧力がかかると人間の遺伝子はすさまじい勢いで変化するのです(特にそういった遺伝子を「ジャンピング遺伝子」と呼びます。つまり変異とは偶然の産物ではないのですね。

どうしてそんなことが起こるのか?

人間のDNAの少なくとも8%は、もともとウィルス由来だったと言うのです。ウィルスの中にはレトロウィルスと言って自分の情報を人間のDNAにコピーしてしまう能力を持つものがいるのです(エイズウィルスがそうです)。そして彼らは人間の細胞を乗っ取るわけなのです。で、人間はレトロウィルスにただ乗りされるだけか、と言うとそうではない。ウィルスと言うのは人間の何百万倍ものスピードで進化・変異することができるのです。で、人間と一体化した彼らは、環境の変化等で危険が迫るとすさまじい勢いでそれに対応しようとするのです。

その結果、人間とウィルスは共存共栄を果たしたということなのです。

つまりたまたま変化に対応できたものが生き残った、というのは間違いで、遺伝子が変化に応じて一生懸命はたらいた結果、環境圧に目的的に適合したということなのですよね。

以前進化生物学者のスティーブン・グールドは「パンダの親指」で、通説の「進化とは2段階(原材料であるランダムな変異と、方向付けの力となる自然淘汰)から成るプロセスで、進化的変化は一般に緩慢、着実、漸移的、連続的なものだということ。」という見方を批判して「化石記録には中間的段階を示すような重要な資料が極めて乏しい」のはおかしいと指摘していました。

ですが、本書の指摘によってグールドが正しかったことが分かります。

私たちが今あるのは、偶然の産物などではなく、残るべくして残ったんですね。すごいことだなあと改めて生命の偉大さを感じました。
特異な進化論エンターテイメント,ただし誤読に注意!

米国の進化医学者による書の邦訳版.一見すると病気を引き起こすための『迷惑な遺伝子』(著者自身ももっている)を紹介し,それらがなぜ存在しているのかを説明し,進化のおもしろさ,すばらしさを述べている.同時に,最近わかってきた遺伝形質の伝達や,トランスポゾンなどによる劇的な形質の変化,または外的要因による遺伝子の働きの変化(エピジェネティクス)も紹介している.難しい内容だが,ウィットに富んだわかりやすい表現を用いているため,250ページの分量も,高校生以上であれば数日以内に読破可能で,広い読者層が対象.

第一感は『おもしろい!』である.身近な不思議にはじまり,それを合理的に考察することで,一見不条理な現象をきちんと説明できることを体現しているため,全く退屈せずに知識の欲求を満たすことができる.話題も多岐にわたり,寄生虫やウイルスの不思議な性質だけでもおもしろいのに,それをきちんと説明していることでさらに満足感が得られる仕組みだ.最終的には,病気に対してどう考えるか,人類の持つ生への欲求とはどうあるべきか,あるいは合理的な思考とは何かという問いに対する著者の考えも紹介されている.たとえば,不老を最初に会得した体細胞が癌であることなどが好例である.

難点は,誤読(誤解)されそうな表現が多々見られることである.たとえば,細菌などの振る舞いを擬人化しているために,謝った解釈が起こる点を危惧する.厳しい環境におかれた細菌が『がんばって生きようと考えて』進化するかのような表現は科学者が論文でしばしば見せるユーモアであるし,そのような環境にさらされた細菌が自身を変化させるというよりは,たまたまうまく変化した個体(数億分の一か,数百億分の一か)だけが滅亡した他の個体の隙間を埋める権利を与えられていることを正しく理解しなければ,著者の全く意図しない,オカルトのような思考が広まる可能性がある(すでに勘違いしているレビュアーの方もいる).また,一部の主観的な考察も事実のように見えてしまう部分がある.一卵性双生児の一方が癌になった話などは推測もあり,注意が必要だ.

きちんと読めば,きわめて有用な書であり,今後の医学がすすむべき道,あるいは病気に対する適切な考え方を学ぶことができる.さきの問題点を危惧して星4つにするか迷うも,情報のおもしろさ,読みやすさや,参考文献がきちんと示されている点などから星5つとする.



日本放送出版協会
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