「権力の悪用の仕方を知らなかった」
タイトルは,戦時内閣副首相・アトリー(のち首相)の言葉で,本書でもはじめに引用されている。当然,「知っていた」のは,ヒトラーだろう。かたや挙国一致内閣の長,かたや全体主義国家の総裁。政治的全権を握っている点で,この2人はコインの裏表である。著者自身がチャーチルの伝記に基づいていると述べている通り,本書は彼の生い立ちから政治家として頂点を極めた時期までを伝記風にまとめている。ロイド=ジョージほか,19世紀末から20世紀半ばまでの主要な英政治家も登場し,英近代史を学べる点もある。 ただ,著者はチャーチルの「政治的人格」を探ることを目的としているが,やや物足りない部分があることは否めない。たとえば,ドイツへの無差別爆撃や英ソ間によるバルカン半島利権分割に対し,彼の「人格」はどのように働いたのか。上述の通り,英近代史への掘りは深いが,外交(戦争は究極の外交手段)上における彼の叙述に欠けている。
斜陽の大英帝国を率いる大宰相の手軽な伝記
ヒトラーがポーランド、フランスを下し、西欧を事実上支配化においた時、チャーチルは英国宰相の地位についた。降伏を突きつけるドイツに対し、チャーチルはイギリス一国でナチスと対決する決断をした。彼は「過去の私の生涯は、すべてただこの時、この試練のための準備に他ならなかったと感じた」と記している。その後ドイツのソ連奇襲、真珠湾攻撃による米国参戦によりルーズベルト、スターリンと共に枢軸国側と戦うことになる。その勝利は祖国が存亡の淵に立たされた際の、この宰相の迷いなき決断がなければあり得なかった。反共主義者なのにヒトラーを倒すためにはスターリンとも手を組む現実主義者。ノーベル文学賞を取るほどの文才。この特異な個性はどのように生まれ、育まれたかを追う手軽な伝記。
中央公論社
チャーチル自伝 (直読直解アトム英文双書 (74)) 第二次世界大戦〈1〉 (河出文庫) 第二次世界大戦〈4〉 (河出文庫) 第二次世界大戦〈3〉 (河出文庫) 第二次世界大戦〈2〉 (河出文庫)
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